【書評】「錯覚資産」の落とし穴
最近でたふろむだ氏(@fromdusktildawn)の本を読んでいて、ふと思ったことの備忘録。
ふとむだ氏のブログは僕も以前からウォッチしていてとてもおもしろい。
というか僕も彼同様、IT畑出身なのでこの業界の闇がよくわかる(笑)。
特にはてなダイアリー時代の昔のエントリがおもしろいので、IT畑の人は時間あるときにでもぜひ読んでみるといいだろう。
この人ヤバい。思考が常人のエンジニアのはるか彼方にまで到達してる。 pic.twitter.com/WjLXHXfSzS
— オンク (@it_warrior_onc) 2018年1月14日
で、今回の本題。
簡単にこの本『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』の内容をひとことでいえば、「ハロー効果で上手に下駄を履こう!!」ということである。
読んだことある人にだけピンとくる説明をすれば、ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』のハロー効果の部分をわかりやすく解説してくれる本といった感じだろう。
ハロー効果とは、ある顕著な特徴に他の事柄に関する評価も引っ張られる人間の普遍的な習性のことをいう。
実はこれは思ったよりも身近なところに例がたくさんある。
例えば、ナンパで美人に声をかけようした際、「軽くあしらわれるんじゃないか」「性格キツめなんじゃないか」「自分なんかストライクゾーンに入らないのでは」とあらぬ心配ばかりが頭をよぎる。
美人のルックスに他の事柄に関する評価が引っ張られているわけだ。
ナンパだけではない。
仕立てのいいスーツを着たセールスマン、賢くみせるスキルだけに長けたコンサルタント、長身イケメン詐欺師...etc
世の中のあらゆるところにハロー効果を活用した例は存在する。
ふろむだ氏はこのハロー効果によって得られる資産を錯覚資産と提唱している。
この世界は、思考の錯覚に満ち溢れている。
なぜなら、「プラスのイメージを引き起こすもの」であれば、なんでも「全体的に優秀」という思考の錯覚を引き起こしてしまうからだ。たとえば、
「売り上げを半期で73%増やしました」
「DAU500万人のアプリのサーバを運用していました」
「株式会社凸凹商事の営業部長をやっていました」
「月間300万PVのブロガーです」
「あの有名人のベストセラー本を担当した編集者です」
なんていうわかりやすい実績は、どれも「思考の錯覚」を作り出す。たとえそれが実力によるものではなく、上司や同僚や部下や顧客のおかげで達成できた実績だったとしても、強烈な思考の錯覚を生み出すのだ。
もちろん、麻雀の強さでも、絶妙なタイミングのつっこみでも、しゃれたジョークでも、住んでるマンションでも、学歴でも、経歴でも、あなたの想像もしなかったような、実にさまざまなものが思考の錯覚を作り出す。
ここで重要なのは、「人々が自分に対して持っている、自分に都合のいい思考の錯覚」は、一種の資産として機能するということだ。
本書では、これを「錯覚資産」と呼ぶ。
ー『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』,ふろむだ
この錯覚資産を自分の人生に有効活用しよう、というのがこの本の趣旨なのだが、この錯覚資産はインターネットととても相性がよく、それゆえにある危険性をはらんでいるのだ。
インターネットの素晴らしいところは資産を蓄積できることである。
これまで「資産の蓄積」といえば、まずまとまった金がなければ不動産や株式にまわして、それらを増やすことができなかった。
しかし、インターネットによって、まとまった金のない貧乏人でも自らの時間を投資してコンテンツやSNSなんかで資産性のあるものを蓄積できるようになった。
これは本当に素晴らしいことだ。
が、その一方で「資産は人をダメにする」というのもまた真理である。
実はインターネットで蓄積した資産というのは、ほとんどが錯覚資産だ。
マッチングアプリのプロフィールも、インフルエンサーのツイートも、NewsPicsのコメントもリアルな現実世界のほんの一部を切り取った情報に過ぎない。
そして、このほんの一部の情報をもとにいろんな人が集まってくる。
いろんな人が集まってくるからさらに人が集まってくる。
しかし、ほとんどの場合、自分のリアルな生活や能力はそれほど変わっておらず、錯覚資産だけがインターネットによって膨張していく。
経済的な実態をもたない金融商品が期待によって暴騰しているようなものである。
Twtter経由で会う人から極稀に自分がなんでもできるスーパーマンのように崇められることがあるが、はっきりいって自分なんかしがないごくごく平凡な会社員だ。
案件を失注することもあるし、仕事が終わらず徹夜することもあるし、困難なタスクを諦めることもある。
ナンパをすれば無視されることもあるし、女の子が仕上がらないこともあるし、野生ナンパ氏にアモッグされることだってある。
みている場所は違えど、普通の人と同じように地べたを這いつくばって生きている。
しかし、人間というのはとても弱い生き物である。
ひとたびいいねがたくさんついたり、フォロワーが増えれば、こうした自らの実態を忘れ、気が大きくなり、全能感が溢れてくる。
いわゆる「自分錯覚資産(自分"が"錯覚している資産)」の肥大化である。
他者の錯覚によって築いた錯覚資産がフィードバックとなり、自らの錯覚によって自分錯覚資産がさらに膨張していくのだ。
するとどうなるか。
他人を攻撃するようになるのだ。
男からのありきたりなメッセージを晒す、数千いいねを獲得したマッチングアプリ女子。
0.3ほどの実力しかないのに2000を語り、結局なにも行動しないNewsPicsおじさん。
自らの生き方のみが正義と盲信し、それ以外はクソだと煽るインフルエンサー。
「自らで自らの錯覚資産に振り回される」という奇妙な現象がインターネットで少なからず起こっている。
インターネットは素晴らしいが、必ずしも万人の役に立つわけではない。
この真理の象徴する出来事ではないだろうか。
それでやっぱりメタ認知能力が必要なのだと個人的には思う。
ときどき一歩ひいて客観的な目で錯覚資産と実力資産を棚卸ししてみる。
錯覚資産と実力資産の差が歪なほど開いたポートフォリオは決して健全とはいえない。
まして新しいものに手をつけたりなど、この差を埋める活動がなされていなければ、それは完全にバブルである。
バブルは遅かれ早かれいつかはじける。
その前にバブルを現実のものにできるか。
「錯覚資産」という概念は、僕らにこうした問題提起をしてくれているのかもしれない。
【週刊恋愛サロン第110号3/3】錯覚資産の増やし方と活用法|オンク|note